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考えない。

家の中で、風呂場が一番好きだった。
どれほど孤独を持て余していても、風呂場でシャワーを頭からかぶり続けていれば、呆けていられた。
髪の毛から垂れる水、体をつたう水、それらの感触にひたっていられた。
私は一人だった。


夕方になると、この辺りは買いものに行く主婦や学校帰りの子供たちの姿が多くなる。
私はそんな街を一人歩くのが好きだった。夕日に照らされる日、夕立に降られる日。


「お前と居るとだめになるんだ」
仕事を終え、家に帰ってきた彼は、部屋で膝を抱える私を見て、そう言って泣いた。
嫌いになったわけではない、でも辛く当たってしまうと。それは私のせいではないけれど、私と居ると自分が自分じゃなくなってしまうようだと、彼は続けた。
それってつまり、私のせいじゃないか。そう言いたかったけれど、言ったところで何も変わらないから、私は黙ってうなずいた。それから、泣きじゃくる彼を抱き寄せた。

彼はそろそろ限界を迎えるだろうなと、なんとなく思っていた。


彼が仕事に出ている間、私は大抵、何もしないで部屋に居た。すこしの家具と、電熱ヒーターしかない、ワンルームの部屋。
何もできないで時間が流れていくことに、最初は少しの抵抗もあったが、今はぼうとして、流されるままになっていた。


夢のような時間を過ごしている。
わたしは考えない。